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2016年6月25日 (土)

TBS日曜劇場『99.9 刑事専門弁護士』のなっていない脚本(宇田学)  ―「刑事専門弁護士?」というより、「雑な私立探偵物語」

 日曜劇場『99.9 刑事専門弁護士』も、今夜(6・19)が最終回だったようである。とんちんかんなドラマ展開にいらだつことが無くなるのは結構である。松本潤の大人を小馬鹿にしたような子供が小首をかたむける姿ももう結構である。法律監修・國枝某とあったように思っていたが、もっといろいろ法律家と称する人物か関わっているそうである。それが芝居で平気でとぼけたことを言わせているのは、どういうことなのかと思う。
一 99.9という数字
 刑事裁判で起訴された事件の有罪率が99.9になるかどうかについては、必ずしも正確ではないという真摯な投稿もある。正確で無い数を一般的なものとしてタイトルに利用しているところに、ドラマ作家宇田学のなっていないところがある。日本の刑事裁判では、起訴された事件(起訴されないと裁判にならない・蛇足)の有罪率は、高いということは確かである。それは実際にほとんどの事件が被告人が有罪を認めている事件であることでもあるが、日本の場合「精密司法」と呼ばれるほど、厳密な手続きの上で立証を行っているとされるからである。
 ところが、この「99.9」を冠するドラマの最終回を含め幾つかを見たが、ドラマで描かれているような捜査では、とても「精密司法」とも「精密捜査」とも呼べない。従って、ドラマのような状態だったら絶対に「99.9」%、有罪にはなり得ない。
 だから日曜劇場のような杜撰な捜査の上で起訴をしたようなドラマの話が無罪で終わるのは、よほどのことが無い限り当たり前のことである。何のドラマ的展開も無いドラマである。「精密」な捜査も司法手続きも全くなされていないのでは、それこそ無罪率99.9%である。
 
二   粗雑な私立探偵物語に、まるで刑事裁判をしているかのように「99.9」など被せるな!
 第9話は、確か国仲涼子が被告役だった。おかしいと気づいた松潤などが、関係者全員を呼び出して、事情を聴取する。つまり捜査をするのである。結果、長男役の平岳大が犯人だったことを見破る話である。結果として国中涼子は無罪になるが、弁護活動の結果では無い。捜査権をもたない素人私立探偵の活躍である。
 裁判活動でもなく、弁護人の仕事でもない。名探偵が真犯人を見破った、とんまな犯罪人を挙げたという話である。どこが刑事専門弁護士だ。
 刑事専門「弁護士」じゃない、単なる刑事の話でもない。被告の立証された有罪を崩していくという裁判ドラマを期待する者が野暮ということか。法律ものらしく、終わりに一捻りあるらしい。
 最終回もマヌケな検察庁の話である。女性が同じような手口で殺され、何の縁も無い男「石川」(中丸雄一)が捕まり、落ちていた血液と毛髪のDNAが一致したとされる。執拗な検事(警察でないらしい)の取調で、自白もしてしまったそうである。
 だいたい、この犯人とされた「石川」はどうして捕まったのか。連続して女性が殺害されているのだが、なぜ無縁の「石川」が逮捕されたのかさっぱり分からない。ポイントとして現場に毛髪と血痕が残されており、それが「石川」のDNAと一致するというのである。
 このような話が全く困る。ドラマにも何にもなっていないのである。他の条件なり材料があって挙げられた「石川」がいて、調べると現場に残されていた毛髪などが一致するというのが、普通のドラマである。日曜劇場がその「普通」を突破する話を展開しているのでは決してない。杜撰な、どんなドラマにも採用されない話を書いているだけである。あまりにも馬鹿げている。放映などするな、と言いたい。毛髪と結婚のDNAが合致する人物をどこからか探して来い!と言うのは、作り話にしても荒唐無稽である。話が逆になっているから、そんなとんでもないことになるんだ。
 最終回の話がこんなとんでもない筋書き― とんでもないことはわかりますね。DNAが一致する人物を(東京都内に限らず、全国、あるいはそれ以上から……通り魔とも想定しているから場所も地域も特定できない)を指定する困難 ―で出来ているのである。
 毛髪だけおいておいても、DNAが判っても、それが誰のDNAか判らんだろう。だから、そもそも「石川」が何で捕まったのか判らんと最初にもどる。毛髪のDNAと一緒だと言われても、それがどうしたというものだ。
 起訴も覚束ないもの(ということは裁判できないということなんだが)に、裁判で「検察官」(弁護士ではない)は、どうするのか(同義反復)。
 
三 深山弁護士(松本潤)のよく分からない最終弁論
 最終回(あるいはその前から)で深山(松本潤)の父親が冤罪で起訴されて間もなく亡くなった過去が明かされた。、班目事務所の班目弁護士(岸部一徳)がその父親の親友であった。そしてその父親を冤罪で起訴したのが、班目の同期の現東京地検検事正大友修一(奥田瑛二)ということで分かりやすい劇の人物関係図が出来た。要するにコントもどきのようだ。小ネタ・ダジャレもそうだ。
 それとの、つまり面白くも無い御ふざけと帳尻合わせのように判決後、被告人らを激しく泣かせるような脚本になっている。もともと言われの無い逮捕・起訴の筈なのだろう。もっと怒ってしかるべきかと思う。
 ところが、その号泣と合わないのが松潤の最終弁論である。最期の見せ場となる深山弁護士(松本潤)の劇には必要無い(と劇中で述べる)最終弁論である。この陳述こそがドラマの主張のようである。見ることができたら、ゆっくりチェックしてもよいが、その必要も無いだろう。
 「石川(中丸)さんは無罪がはっきりしています。しかし、石川さんの無罪が確定しても石川さんは、元には戻れません。失われた日常生活は戻りません。誤った逮捕、起訴によってその人の日常はかえってきません。その人の人生は大きく狂わされてしまうのです。」「日本の刑事裁判では、99.9%が有罪です」と松潤が喋る。99.9という数字が必ずしもそうでないというデータもあるが、さらに松潤は「どうして、そうなるのでしょうか、それは国家権力である検察官の判断だから間違いが無い、正しいと思っているからです。」「もっと事実を見てください。事実はたった一つです」と続ける。「この事件は、刑事事件で最も大きな罪とされる冤罪事件です」
 この弁論は、この最終回の山場、あるいは、日曜劇場のこのシリーズの山場として、クライマックスとして設定されたものである。それにしては出来が悪い。
 一つ目、このコントばりのドラマには、「石川」という被告人が出てくる。冤罪事件として有名な狭山裁判の石川さんを連想してしまう。狭山事件の石川さんをもじっているのだったら、宇田学は最悪だ。ドラマで「石川」が逮捕されて無罪になるまでいくらもかかっていない。宇田は、石川一雄青年と一緒にするような発想の醜悪さを自問すべきだ。もし、「石川」としたことに他意は無いということであれば、「冤罪」を口にしながら、その被告人を「石川」とするのはあまり無自覚でないか。「石川青年」として覚えている私は、新聞の写真で何十年ぶりかの石川氏の姿を見たとき、少年期を脱したばかり青年のあまりにもの変貌ぶりに愕然とした。監獄で絶望を繰り返し過ごした年月を思い絶句した覚えがある。深山弁護士(松潤)が、とくとくと日常生活はもどらないと語るようなことは、あの石川青年については言えても(しかも決して無罪になっていない)、ドラマの「石川」に対しては、何の心配も無いと言ってよい。宇田の脚本はここでも白けるのである。
 二つ目、「誤った逮捕、起訴によってその人の日常はかえってきません。その人の人生は大きく狂わされてしまうのです。……日本の刑事裁判では、99.9%が有罪です」と述べる。誤った逮捕で、起訴になる可能性は少ない。しかも、ドラマのようなルーズな起訴が有罪になる可能性もほとんどない。それはドラマの展開のとおりである。ドラマで無罪になるのは、斑目法律事務所の弁護士の活動がすばらしいからではない。ドラマでの捜査・起訴のやり方が出鱈目なので、とても有罪にできない「裁判」だからである。「99.9……」の如きは検察側からみても杜撰この上ないドラマである。
 深山弁護士(松潤)が、逮捕・起訴・有罪判決という決まったレールがあるようにとくとくと喋る。裁判の原則ルールをTBSの法律監修スタッフな知っている筈だから、宇田学に教えてやっておくべきじゃないか。有罪の判決があるまで、被告人は「無罪の推定」をうける、というのは、誰も勉強のし始めに教わることである。TBSのサイトに「推定無罪」と書いていた。推定無罪というのは何か?無罪にいくつかある種類の一種なのか。「起訴されたら有罪決まり」だったら、裁判も裁判前の活動もどうなるのだ。宇田は少しは勉強してから、松本潤に喋らせろ。少し勉強した高校生でも、宇田学のようなヘボい芝居は書かない、というより書けないだろう。
 三つ目、繰り返しになるが、宇田が松潤に言わせる次の台詞もまずい。「(有罪率99.9%)どうして、そうなるのでしょうか、それは国家権力である検察官の判断だから間違いが無い、正しいと思っているからです。」「もっと事実を見てください。事実はたった一つです」。宇田は「刑事専門弁護士」などとタイトルに書きながら、刑事裁判での弁護士の仕事を何一つ判っていないようである。少しは、アメリカのリーガル・サスペンスの何編かを読んでもらいたいものである。
 四つめ、「この事件は、刑事事件で最も大きな罪とされる冤罪事件です」とある。気持ちは分からないことはない。しかし「最も大きな罪とされる冤罪事件」はどんな犯罪類型なのだ。冤罪の意味や問題についての勉強なしに台詞に入れたのだろう。
 
四 出演者たちには、つまらないドラマだという自覚はないのだろうか?
 班目事務所長班目弁護士役の岸部一徳やパートナー佐田弁護士役の香川照之、検事正大友修一という重要な役をする奥田瑛二、それに時代劇『ちかえもん』で新境地を開拓した青木崇高らは、キャリアも積んでおり、いろんな作品も知っている筈である。
 彼らは、ドラマの展開には、それほど違和感など感じず、つまらないダジャレと小ネタで仲間内で楽しみ、10回のシリーズの録画を終わらせたのだろうか。
 視聴率は高いそうである。しかし、本格的なお笑いには及ばない小ネタでジャニーズ系の脇の貢献をして、何が楽しいのか。
   役者だったら、ジョン・グリシャムとかスコット・トゥローなどの作品や映画をみることもあるだろう。それを読んだり見たりしたときの緊張感・高揚感をひとたび味わったようなことがあったら、自分たちの役者としての情けなさを自覚できると思うのだが。

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