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2016年4月23日 (土)

TBS「日曜劇場『99.9―刑事専門弁護士―』」について

 「99.9―刑事専門弁護士―」というタイトルのばからしさ
 TBSの日曜劇場は、最近では池井戸潤原作の『下町ロケット』や『半沢直樹』がテレビドラマの話題を独占した。しかし、「99.9―刑事専門弁護士―」は、豪華キャストでもあり、それに伴う宣傳も念入りだが、内容には期待していなかった。
 その時間のフジテレビの『OUR HOUUSE』で芦田愛菜が「中学生」という世代を変えて登場するので興味があったのだが、時間が来ると日曜劇場にチャンネルを合わせていた。それは「99.9―刑事専門弁護士―」というタイトルが気になったからである。日本の刑事裁判の有罪率が99.9パーセントだというその「99.9」という数だけ取り上げて、話題にしたことにそもそも問題があり、面白い話にはなる筈は無いと思ったのである。その数字の意味を脚本家も弁護士役の出演者もよく分からずに下手な芝居をしているようだからである。
 何かこの数字に、とんでも無い誤解があり、これを取り上げることに意味があると素朴な勘違いをしているのだろう。
 「99.9%」の数字については、よく言われていることで、びっくりするほど新奇なことではない。製作者側の拙劣な誤解があるだけなのだろう。
 番組の宣伝サイトの最初に「無実を証明できる確率、0.1%。」と大きい見出しがあって、ジャニーズ嵐の全く知性などかけらも感じさせない松本潤がネクタイを緩めた姿でポーズをとっている写真が出てくる。
 番組の法律監修をなさっているTBS社員弁護士の國松崇氏は、「日本の裁判が検察官が証拠をチェックして後半を維持できると考えられる者しか起訴しない考えをとっているので、ほとんど有罪になるのは当然だ」という趣旨を書かれている。「99.9」を異常なこととは考えておられない。そして、「証拠が不十分なのに起訴され公判に付されることは当事者にとっては、とてつもない不利益なことになる」ともされる。國松氏は「検察に起訴されると、ほぼ100%の確率で有罪の判決がでます」とし、それは、証拠の不十分な人から負担を早く解放してあげようという、被疑者の人権保障の一環だとも書かれている。
 
 「無実を証明できる確率?」・・・刑事事件とは何か?
 「無実を証明できる確率、0.1%。」は、宣伝なら構わないだろうと営業サイドで書いたのだろうが、TBSに弁護士として職を得て報酬を得ている國松氏は、この一番最初に出てくる番組のキャッチ・フレーズは許容できない筈である。刑事事件では、弁護人は無実を証明することが第一の課題ではないからである。無実を証明することは、現実には至難の業である。犯罪が行われたときにそこの存在し得ないことが証明されれば簡単だが、そのことは不可能がことが多い。刑事事件では、有罪の証明を少しでも崩せば、それは無罪である。それは無罪を「証明した」ということにはならないだろう。
 第1話の中で、刑事弁護人の課題を議論させていた。弁護人の課題は、「真実の発見」だとか、いろいろ意見が出ていた。國松弁護士のチェックが不十分なように見えた。第1の課題は被告人の利益ではないか。真犯人を捕まるために、被告人が犠牲になっては堪らないではないか。
 第1話は、正直言ってドラマとして何の盛り上がりも無い作品だった。ストーリーも赤井英和が冤罪を被る被告人を演ずることだけのようだった。事件ものとしては、赤井を有罪とする証言や証拠映像の作為を見破るというよくある刑事裁判のパターンで、岸部一徳や香川照之といった芸達者や、高橋克実や泉谷しげるにもまれ刑事役者としても脱皮した榮倉奈々を起用したわりには、全くさえないドラマだった。その刑事ドラマよりも内容の無い裁判ドラマだった。
 
 刑事裁判についての理解
 「99.9%」を話題にすることにどんな意味があるのか、ということにならないか。國松氏も弁護士ならご存知のことだが、刑事事件では、被告人が争っていることは稀である。有罪を認めているのがほとんどで、被疑者が認めたのを検察が起訴しているのである。そのようなことは、日本と違って憲法に陪審制を唱えているアメリカでも似たようなことがある。アメリカでは、アメリカ合衆国憲法にすべての犯罪の審理は陪審をもってするとあるが、実際には、有罪を認めてトライアルまで行かないか、裁判官トライアルに回って、陪審トライアルには全事件数の1%ほどのようである。そうすると、日本の刑事裁判の有罪率が99.1%という衝撃度がずいぶんと違ってくる。   有罪率の高さを、人権保障がなされている一端でもあると述べた國松氏は、そのすぐ後で「ちなみに、この有罪率は他の国と比べてもとても高い数字です。たとえば国によっては起訴段階で検察がシロかクロかの判断をそこまで厳密には行わず、とにかく起訴してから刑事裁判によって決着をつける、という運用を採っているところもありますが、その場合はやはり有罪と無罪の確率が半々だったりします」と書いている。  検察が捜査を厳密にせずに、とにかく起訴して裁判をして決めようという国があると書いている、どこの国のことだろうか。テレビ局の法律監修者の文としては杜撰ではないか。というのは、起訴することは、厳密を要することで、人権を尊重していることだと國松氏自身が書いているのである。起訴の非常にルーズな感覚の国の制度は、非常に問題が多いと言うことになる。具体的に何を想起しているのだろうか。尤も、國松氏は「たとえば国によっては……」と全く架空の例をあげているようである。
 
裁判ドラマで分かる、その国の文化
 日本にも、かつては、裁判や司法を話題にしたドラマがあった(大岡裁判などを言っているのではない)。
 先日、『刑事フォイル』のシリーズの放映が終わった。第2次大戦下のイギリスの一地方が舞台の警察ものだが、見ごたえがあった。
 アメリカのリーガル・サスペンスの水準の高さは、何なのだろう。
 多額の費用を使って行っている、「いじめ」と変わらない裁判員裁判を法学部も法曹も問題にできない程度の知的水準の 日本の裁判ドラマなのだろうか。

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